推薦図書

『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち』

  • 著者名 : J.D.ヴァンス著,関根光宏・山田文訳
  • 出版社 : 光文社
  • 出版年 : 2017年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2019 Vol.2
富と教養あふれる評論家たちは,しばしば,ポピュリズム政治家の誕生を民主主義の誤作動とみなして批判する。大衆は愚かだからときには誤った判断をするのだと嘲笑する論者たちは,おそらく市井の人々の日常の苦悩を知らないのだろう。
本書は,産業の衰退や移民の増加などといった課題を抱えるラストベルト(さびついた工業地帯)出身の,あるヒルビリー(田舎者)の半生記である。恵まれない環境で生まれた著者は,自らの絶望的な境遇を嘆くのではなく,海兵隊で規則正しい生活を送ることの重要性を学び,努力をすれば自分自身を成長させうることを知る。そして,イェール大学ロースクールでの法律家になるための勉強を経て,シリコンバレーの投資会社の社長に上り詰める。
もっとも,本書は,華々しいサクセスストーリーではなく,とても切ないエレジー(哀歌)である。著者のような成功者は実際にはごくわずかであり,多くの人たちがアメリカの繁栄から取り残されているという現実が描かれている。そして,都会で優雅に暮らすエリート層には見えていなかった,ポピュリスト政治家が登場した背景がここにある。
学生のみなさんは,成功へとつながる社会関係資本の意義と,(悪友たちはバカにするかもしれないが)自らを律し誠実に生きることの尊さを,本書から読み取ってほしい。
(柳瀬 昇教授/5F東開架)