推薦図書

『貧困と闘う知 : 教育,医療,金融,ガバナンス』

  • 著者名 : エステル・デュフロ著 峯陽一,コザ・アリーン訳
  • 出版社 : みすず書房
  • 出版年 : 2017年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2018 Vol.5
本書は,低所得国が抱える教育・健康・金融・ガバナンス問題についての研究成果を,読みやすい形にまとめ上げた一冊となっている。本のタイトルを見ただけでは,この本が経済学者によって書かれたものであると推察するのは難しいかもしれない。
国家が市場に介入するのは,財の配分を行うにあたり,市場における価格調整機能を用いた配分では,公益の観点からの配分が難しい時となる。本書の第4章「ガバナンスと汚職」では,汚職を「公務員(または議員)が個人的な特権を得るために規則に違反する状況」と定義する。そして「腐敗した公務員たち」が行っているのは「法律に違反することで,国家が除去しようと試みた市場のロジックを再導入し,しばしば財の分配の方法を変化させようとする」ことであるとしている。ここで言う市場のロジックとは価格調整機能を用いた配分を指し,汚職では,賄賂,ゆすりとられる金や,みかじめ料が,財の配分において価格の役割を果たすものとなる。
社会に存在する問題には,政治の分野,経済の分野,そして法の分野として,切り離して考えることが難しい問題も多い。本書は,政治・経済・法を学んでいる人,ここ日本大学法学部で学んでいる人に,読むことを薦める一冊である。  
(横溝 えりか准教授/5F東開架)