推薦図書

『中野重治詩集 : 中野重治自選』

  • 著者名 : 中野重治 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 1956年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2018 Vol.5
二〇世紀の詩人,中野重治は教養主義を批判した。それは「大正」期以降,教養主義とは教養を持たない人々を二流以下の存在に位置づけ,「文化」的な「市民」にのみ権利を認める発想とみなされたのだ。中野らプロレタリア文学の担い手たちは,そのような卓越化への「否」を述べたのである。
今日もまた,企業や国家の立場から教養主義は批判されている。しかしその批判の意義は換骨奪胎され,完全に真逆のものとなってしまった。教養を持つ意味は,資本主義社会の中で無害な労働者を仕立て上げ,またリソースを最適化するために無化されるのである。
だが現代のこの事態は,中野の著作を読めば極めて偏ったものであることがわかる。中野において教養主義批判が,労働者の力を汲むための「別種の知」を求めることと固く結びついていた点は,決して忘れてはならない。そして私は学生たちにも,これからの自分たちにとって真に必要な「別種の知」とは何なのかを,「教養」や大学,図書館,そして自らの周囲から盗み取り,作り出して欲しいと願っている。
最後に中野の詩,「歌」の一節を掲げたい。
「たたかれることによって弾ねかえる歌を/恥辱の底から勇気を汲みくる歌を/それらの歌々を/咽喉をふくらまして厳しい韻律に歌いあげよ/それらの歌々を/行く行く人びとの胸郭にたたきこめ」
(宮澤 隆義専任講師/3F東開架)