推薦図書

『憲法改正限界論のイデオロギー性』

  • 著者名 : 大塚滋 著
  • 出版社 : 成文堂
  • 出版年 : 2017年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2018 Vol.4
著者は,わが国の「憲法学の主軸をなしていると見受けられる学者たちの議論」には,「まさに悪臭を放つイデオロギーが詰め込まれていた」と喝破する。学問の世界に身を置く者は,「いつまでもその言説を見て見ぬ振りをして放置してはならず,必ずや徹底的に批判し学問の世界から放逐しなければならない」との学者としての責務に根ざした著者の厳しい姿勢が示される。そんな法哲学者によるケルゼン純粋法学からのイデオロギー批判の実践の書である。
本書の大半を占める主章は「自民党による憲法96条先行改正案に対する諸反論」,「憲法96条改正反対論とその系譜」,「自民党反対論の論拠としての『立憲主義』論とその系譜」,および「憲法改正限界論批判」の4節で構成されている。この中で著者の標的たる「イデオロギー」とは,自ら真実でないことを知りながら何らかの実践的目的のためにあたかも真実であるように主張される言説のこと。一流大学教授の名の下に世論を誘導する憲法学者のイデオロギーが白日の下に晒される。
「政治とイデオロギーとデマゴギーに深く汚染された憲法学をそれらから解放」するという著者の思いが達成されたかどうか,結局のところ読者の理解に待つほかない。
(東  裕教授/4F東開架)