推薦図書

『ヘイト・スピーチ規制の憲法学的考察:表現の自由のジレンマ』

  • 著者名 : 桧垣伸次 著
  • 出版社 : 法律文化社
  • 出版年 : 2017年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2017 Vol.4
本書は,ヘイト・スピーチ規制に関する憲法的な問題を検討したものである。日本国憲法21条は「集会,結社及び言論,出版その一切の表現の自由は,これを保障する」と規定している。言うまでもなく,憲法で保障されている表現の自由は,民主国家にとって極めて重要な権利である。大日本帝国憲法29条は「日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス」と規定されていた。つまり表現の自由を弾圧する法律を制定することは,当時の日本政府に許されていたのである。その結果,日本にどのような悲劇が起きたかは,歴史が証明する通りである。故に表現の自由を規制する法を制定することは,許されないことであり,たとえ必要な場合があっても,どのような表現をどのような理由で規制するのかを,明確にできない限り違憲となる,と考えるのが一般的である。ところが近年ヘイト・スピーチという現象が問題になった。これはある一定の民族等に「殺せ」とか「ゴキブリ」と罵る嫌悪表現を投げかける行為のことである。そんな表現は規制されても良いのではないか?その通りだが,保障されるべき主張と,罵りでしかない嫌悪表現と,明確に区別できるだろうか。表現の自由って一体何なのか,本書を読んでじっくり考えてもらいたい。
(塚本 晴二朗 教授/1F新着図書コーナー)