推薦図書

“The Theory of Moral Sentiments”

  • 著者名 : Adam Smith著 D.D.Raphael・ A.L.Macfie編
  • 出版社 : Oxford Univ.
  • 出版年 : 1976年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2013 Vol.4
『道徳感情論』はアダム・スミスがグラスゴウ大学の道徳哲学教授のとき,1759年に36歳で出版した処女作で道徳哲学の本である。1776年に出版した『国富論』と並ぶ代表的著作である。道徳は,スミスにとって,人間が生きていくための行動や規範であり,道徳哲学は,それについて原理的に考える学問である。人間が生きていくためには,社会を形成しなければならないから,道徳哲学の中には,社会の仕組みや運営の方法(政治)についての研究が含まれ,また,人間が生きていくためには,生活資料をつくらなければならないから,生産や流通などの経済問題についても研究しなければならない。社会の運営を広い意味で考えるならば,教育や法律や治安の問題も入ってくるだろうし,それらの費用の調達は,財政の問題になる。したがって,道徳哲学は,今日でいう社会科学のすべての領域を含んでいたのである。だがその後,確かに社会科学は,いくつかの専門に分かれて発展した。それによって,個々の部門での分析は精密になったが,同時に社会全体を見通すことができなくなり,本来の目的であった社会の中での人間の生き方に,直接関係のないものとなってしまった。しかし『道徳感情論』の中には,近代の人間と社会をトータルに捉えた社会科学者(道徳哲学者)としてのスミスの豊かで細やかな観察が多くちりばめられ,非常に魅力的な書物である。
(山口正春教授/6F西開架)