推薦図書

『ヒゲの日本近現代史』

  • 著者名 : 阿部恒久著
  • 出版社 : 講談社
  • 出版年 : 2013年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2013 Vol.4
服装や髪形などのファッションは,身体と文化の交差する地点に発するものだ。私たちは,それぞれ自分の個性を表現する手段の一つとして,装いにこだわる。しかし,独自性を求めたつもりでも,そこには私たちの生きる時代の価値観が色濃く反映されている。私たちの美意識は歴史によって規定されているのだ。『ヒゲの日本近現代史』は,ヒゲという「男の装い」に焦点を当て,歴史を定点観測によって理解しようとする試みと言える。本書の冒頭で述べられているように,女性の身装史研究が盛んに行われているのに対し,男性に関してはそういった類の研究はほとんどない。男性身装史の必要性を著者が説くのは,男性性そのものが歴史的につくられたものであるという認識による。本書の著者は『男性史』(全3巻,日本経済評論社)の編著者の一人でもあり,ヒゲの研究は男性史の一環として構想されたものである。高校の日本史教科書で学んだ歴史上の人物たち。ヒゲという視点からとらえられたとき,彼らは明らかに“別の”歴史を語ってくれる。明治時代には,ヒゲは権威・権力を表す記号であったが,大正デモクラシーの時代から昭和にかけて,こういった権威主義的な男性性とは切り離された別種のヒゲが登場してくる。ヒゲのシニフィアンとシニフィエの多様性には,目をみはるものがある。日本史にユニークな視点から照明をあてた,興味深い一冊と言えよう。
(江島泰子教授/5F東開架)