推薦図書

『天下無敵のメディア人間:喧嘩ジャーナリスト・野依秀市』

  • 著者名 : 佐藤卓己 著
  • 出版社 : 新潮社
  • 出版年 : 2012年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2012 Vol.2
「赤新聞」,「イエロー・ジャーナリズム」という言葉は,新聞学科の学生を除いては今や死語に近いと思えます。一言でいえば,新聞を売るためには個人の名誉なぞ関係なく面白おかしく誹謗,中傷をする新聞のことです。彼が社長をしていた『帝都日日新聞』は戦後も暫らくは私たちの目に触れたので,私もそうした新聞として見ていました。同時に彼は「危ない」右翼の一人という認識でした。この本は,これまでも日本のジャーナリズムやマス・メディアについて,例えば同じ新潮選書の『輿論と世論』や柏書房からの『戦後世論のメディア社会学』などによって,歴史学の視点から着実な実績を上げてきた佐藤卓巳京都大学大学院准教授が,「危ない新聞屋の危ない新聞」というこれまでの世間の見方に,自らが発掘した新資料等も交えて新たな評価の光を当てた本です。非常に面白くかつ時代の流れに竿をさすことで名を挙げることに成功し,失敗した人間像を描いたものです。戦前の軍国主義の時代に「言論」を利用して竿をさし,さした振りをすることで売名し金を得た「ジャーナリスト」が,戦後社会の変動に企業ジャーナリストとしては結局適応できずに滅び忘れ去られていった経緯がつぶさに示されている点では時代と人間というテーマで読み解いても面白いでしょう。
(小川浩一教授/3F東開架)