推薦図書

『死刑制度と刑罰理論 : 死刑はなぜ問題なのか』

  • 著者名 : 井田良 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2022年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2023 Vol.1
「死刑存廃論は価値観の対立でしかないのか?そこに“理論”がはたしてあるのか?」一定の主義主張(価値観)を前提にそこから動くことなく,相手方に批判を加え合っているかのような,かみ合わない議論状況を目にしたときに,そのような感想を抱く者もいるのではないでしょうか。本書の著者,井田良教授は,言わずと知れた理論刑法学の第一人者の1人です。そのような著者が死刑存廃論に目を向けたということは,実に不思議でした。しかし,それは本書を読んですぐに腑に落ちるものでした。つまり,本書は,“刑罰論”の見地から死刑を論じた書であり,刑罰論はいうまでもなく理論刑法学です。まごうことなき理論刑法学の見地から,死刑存廃論を捉え直したのが本書なのです。
著者は,死刑存置論が前提とする,被害感情を前提とした応報刑論に懐疑的です。著者が主張する刑罰の目的とは,「法の否定の否定」です。犯罪(法の否定)に対し刑罰(否定)を科すことによって,法の回復をはかるのが刑罰だというのです。このように,私益(被害者の生命)ではなく,公益(法)保護が刑罰目的ならば理性的な議論も可能になるとし,著者独自の廃止論を導きます。本書が死刑存廃論に一石を投じるものであることは間違いありません。
(南由介教授/4F西開架 326.41||I 18a)