推薦図書

『国際機構論講義』

  • 著者名 : 最上敏樹 著
  • 出版社 : 岩波書店
  • 出版年 : 2016年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2022 Vol.2
2022年のロシアによるウクライナ侵攻は,今日に至るまで戦闘が続き,多くの犠牲者が出ています。しかしながら,国際的に非難されるこの侵攻に対して,国連などの国際機構が十分な機能と役割を果たせているとは言い難いでしょう。
そもそも国連,及び国際機構はいかなるもので,どのような役割を期待されているのでしょうか。そのような問いを,国際機構論の第一人者である著者が正面から扱っているのが本書です。国連をはじめとする国際機構がいかなる歴史的経緯で構想,創設され,今後いかに発展しうるのかが論じられています。著者は,国連という仕組みは万能ではないため,国連中心主義と異なる,NGOなど多様な国際アクターが参画する「マルティラテラリズム」の重要性を説いています。 
この指摘はもっともですが,一方で,ロシアによるウクライナ侵攻のような大規模な国家間紛争は,むしろ国連を中心とした枠組みが依然として重要性を持っていることを再認識させるものともいえます。国連には,安保理のみならず,総会,事務局,国際司法裁判所をはじめとする多くの組織が存在し,その潜在的な有効性は残っているからです。その意味で,国際機構論は今後新たな展開を迎えることも予期されるでしょう。
いずれにしても本書は,国際機構にまつわる様々な課題を具体例と共に詳細な解説がなされているため,その意義は大きいといえます。学部生には難解に感じられるところもあるでしょうが,国際機構に関心のある学生にはぜひ手に取っていただきたいと思います。
(本吉祐樹専任講師/4F西開架 329.2||Mo 16||B)