推薦図書

『ポストモダニズムの政治学』

  • 著者名 : リンダ・ハッチオン著 ; 川口喬一訳
  • 出版社 : 法政大学出版局
  • 出版年 : 1991年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2022 Vol.1
ポストモダニズムとは,近代を超克することを目指して,20世紀に哲学・芸術・建築・批評などの分野で拡がった思想運動です。著者は,建築,文学,写真,映画,絵画など多岐にわたる事例を用い,政治的次元におけるその根源的二重性を明らかにします。実は,これら表象文化は,どんなに政治的言説を欠いているように見えても,社会的事象である時点で政治的構築物であることを免れることはできません。社会自体が意味体系のネットワークである以上,それは,政治的に形成されたものとしてしか存在しえないのです。一方で,政治に対して批判的距離を保つことは社会の健全性を維持するために不可欠ではありますが,残念ながら,あらゆる社会的事象はこの点に無自覚です。しかし,ポストモダニズムに限っては,批判的距離を措定しつつ,それを破壊する逆説的二重性を帯びていることが本書で例証されます。ポストモダニズムは,政治と分かちがたく結びついていることを戦略的に自認し,それを対象化することで,批判的距離を確保するのです。現代社会の価値体系と支配的イデオロギーを身近な事例を用いて問い直し,社会と政治の関りについて俯瞰的に見つめ直すに相応しい入門書として推薦します。
(松山博樹准教授/3F西開架 704||H 98)