推薦図書

『ウィトゲンシュタイン,最初の一歩 = The first step with Wittgenstein』

  • 著者名 : 中村昇 著
  • 出版社 : 亜紀書房
  • 出版年 : 2021年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2021 Vol.5
「世界がどうであるかということが,神秘なのではない。世界があるということが,神秘なのだ」
20世紀の哲学者ウィトゲンシュタインのこの言葉にもあるように,「世界があるということ」,この当たり前にすぎる事実にこそ,本当の謎があり,なぜ,この世界があるのか,その答えのなさ,不思議さ,まさにこの神秘を前にしては,人は絶句し,驚きを覚えるほかはないのでしょう。
「この世界がどうであるかということ」,そうした既成の世界観や価値観を基準や目安にして,人は,それぞれの社会生活を営み,それぞれの人生設計を思い描くことができているわけです。だとしても,それだけではけっして安心していられるものとはいえません。なぜに,どうして,そうした世界観や価値観がなりたつのか,という問い,そのような「世界があるということ」の不思議さが,いつまでも,どこまでも残されてくるのではないでしょうか。
ウィトゲンシュタインがこの言葉に込めたはずの感覚そのままに,本書を通じて,自然や社会,文化を含め,この世界が存在することの不思議さに気づかされることになるはずです。中学生や高校生に向けて,わかりやすく哲学を語りたいという著者のその思いは,法学部で学び,これから社会でご活躍するみなさんにも,けっして無縁なものではないと思っています。社会や人生というものを深く見つめなおす,大切なきっかけの一つにしてほしいと思う一冊です。
(岡山敬二准教授/1F新着図書コーナー 134.97||N 37a)