推薦図書

『イデオロギーとは何か』

  • 著者名 : テリー・イーグルトン著, 大橋洋一訳
  • 出版社 : 平凡社
  • 出版年 : 1996年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2021 Vol.1
本作品は,オックスフォード大学で長らく教鞭を執り,文芸批評の大家として世界的に知られた筆者が,啓蒙主義以来の西欧思想をイデオロギーという視点から読み直した入門書的名著である。本書の優れた点は,第一にイデオロギー論の歴史を辿るという難解な作業を,英国人らしいユーモアを交えつつ,見事な手さばきで整理して見せてくれるところにある。また,イデオロギー論にありがちな社会科学系の切り口から時に離れ,軽妙な語りで人文系の哲学者までを視野に取り込もうとする力量は,文芸批評の泰斗ならではと言えるだろう。
文学,文化の研究者がイデオロギーについて語るということに驚きを感じる学生もいるかもしれない。しかし,本書に繰り返し現れるマルクス,アドルノ,ハーバーマス,アルチュセールらの名前をここに挙げればその理由は十分に理解できるはずだ。これらの思想家たちはすべて文学,文化の研究をその思想の重要な基礎の一部としていたからである。社会科学系と人文系の知の垣根を軽々と超えてみせる著者の学際的手腕が,社会を根本から支える学問に日々触れている法学部生にとって大きな学びとなることは間違いないだろう。
(松山 博樹准教授/5F東開架)