推薦図書
『ハンナ・アーレント「戦争の世紀」を生きた政治学者』
- 著者名 : 矢野久美子 著
- 出版社 : 中公新書
- 出版年 : 2014年
- ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2015 Vol.4
ハンナ・アーレントをまだ知らないという人,あるいは「名前は聞いたことがある」というだけの人に,この本の読書を薦めたい。読後にきっと,アーレント自身の著作に触れてみたいという思いに駆られるはずだ。
20世紀初頭にドイツに生まれたユダヤ人という彼女の出自は波乱の生涯を予測させるものだが,著者はその生涯を丁寧にたどっていく。ナチ台頭前のドイツでのユダヤ人たちの状況とともに,反ユダヤ感情に対するアーレント自身の反応も興味深い。
強く印象に残ったのは,アーレントが他者たちとの間に有していた深く多様な関係性である。二人の哲学の師ハイデガーやヤスパースとの間の,生涯の伴侶となるブリュッヒャーとの間の,そしてベンヤミンなどの友人たちとの間の。
そうした彼女から多くの友人たちを奪ったのが,『イェルサレムのアイヒマン』の出版だった。本書は,この問題の書をめぐっての論争の経緯とともに,友人たちからの非難にさらされたアーレントの思いをも十全に伝えてくれる。
『イェルサレムのアイヒマン』において「悪の凡庸さ」を指摘したアーレントの思想は,私たち一人一人の思考や生き方とどう関係するのか。著者が一番示唆したかったのは,おそらくこの点だ。本書を読み進みアーレントの生涯と思索に触れるとき,多くの読者は,今いる社会と時代に対して自分が惰眠をむさぼっているのではないかという思いをきっと抱くことだろう。深く問うことのアクチュアリティーは今なお,いや今こそ求められているのではないだろうか。
(江島 泰子教授/3F西開架)
20世紀初頭にドイツに生まれたユダヤ人という彼女の出自は波乱の生涯を予測させるものだが,著者はその生涯を丁寧にたどっていく。ナチ台頭前のドイツでのユダヤ人たちの状況とともに,反ユダヤ感情に対するアーレント自身の反応も興味深い。
強く印象に残ったのは,アーレントが他者たちとの間に有していた深く多様な関係性である。二人の哲学の師ハイデガーやヤスパースとの間の,生涯の伴侶となるブリュッヒャーとの間の,そしてベンヤミンなどの友人たちとの間の。
そうした彼女から多くの友人たちを奪ったのが,『イェルサレムのアイヒマン』の出版だった。本書は,この問題の書をめぐっての論争の経緯とともに,友人たちからの非難にさらされたアーレントの思いをも十全に伝えてくれる。
『イェルサレムのアイヒマン』において「悪の凡庸さ」を指摘したアーレントの思想は,私たち一人一人の思考や生き方とどう関係するのか。著者が一番示唆したかったのは,おそらくこの点だ。本書を読み進みアーレントの生涯と思索に触れるとき,多くの読者は,今いる社会と時代に対して自分が惰眠をむさぼっているのではないかという思いをきっと抱くことだろう。深く問うことのアクチュアリティーは今なお,いや今こそ求められているのではないだろうか。
(江島 泰子教授/3F西開架)