推薦図書

『環境と文明の世界史』

  • 著者名 : 石弘之,安田喜憲,湯浅赳男 著
  • 出版社 : 洋泉社
  • 出版年 : 2001年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2014 Vol.2
東日本大震災が社会に与えた影響は,様々な面で顕著であった。その余波をうけてか,「環境」をめぐる議論は,一時期ほどの活発さがみられなくなったことも事実であろう。そこで,あらためて環境をめぐる問題を考え直す意味でも,この本をとりあげてみたい。本書は,環境学・環境考古学・比較文明史といった分野の専門家が集まり,語らいあった対談集である。その狙いは,冒頭において明晰に語られる。環境論・環境問題を真っ先に取り上げたレイチェル=カーソンの『沈黙の春』から始まり,環境論の発達をもっとも阻害していた要因が,歴史学であったこと,それもマルクス主義歴史学であったことが語られ,鮮烈な印象を残す。その印象を失うことなく,三者の対談は,ネアンデルタール人の時代から,古代ローマ,そして中世ヨーロッパを経て現代にまで,まさに縦横無尽・快刀乱麻のごとく展開する。まさに環境を縦糸に,歴史を横糸に配しながらの知的興奮を伴った議論である。思えば,3・11後に問題となったエネルギーをめぐる議論も,やはり環境を抜きにしては語ることはできない。ビッグスポーツイベントを誘致せんがため原発問題は解決済みとし,国際社会へもみずからそれを語る人間がリーダーとなっている(してしまった)昨今の状況を省みるためにも,今一度本書を読んで考え直してみたくなった。
[黒滝真理子教授/3F西開架]