推薦図書

『史学概論』 

  • 著者名 : 遅塚忠躬 著
  • 出版社 : 東京大学出版会
  • 出版年 : 2010年
  • ライブラリ−・ニュース掲載号 : 2011 Vol.4
「歴史とは何か」。この問いへの答えを分かりやすく解説してくれる,ありがたい本が2010年に出た。 
著者は,2010年亡くなられた,わが国を代表するフランス革命史研究者・遅塚忠躬氏である。歴史研究の現場で多種多様な膨大な史料を分析してきた,歴史学者の活き活きした「声」が本書を貫いており,それが本書の大きな魅力となっている。

「言語論的転回」や「物語り論」などに連なる学説の洗礼を受けた今日の我々は,もはや,完全な過去の客観的事実など手に入らないと知っている。しかし,ややもすれば,歴史とは歴史家の解釈に基づいた「作り話」や「文学」に過ぎないと割り切る誘惑にもかられる。遅塚氏は,自身の研究生活で研ぎ澄まされた感覚に基づいて,歴史的事実の「柔らかな実在論」を信じる独自の立場を表明し,過去の世界の復元の可能性(限界)や歴史研究の社会的意義について丁寧に論証していく。 
本書は,とても読みやすい。なぜなら,遅塚氏の東京大学文学部在職中の講義ノートが本書の母胎だからである。それ故,学部生レベルの入門者であったとしても,興味を失わずに難解な議論についていける。また,欧米だけでなく戦後日本での歴史研究の手法や理論の流行とその移り変わりも分かる。これも本書の魅力であろう。 
(馬渕彰准教授/3F西開架)