[大意]

爛漫と咲き誇る吉野山の桜花は、まるで美しい色の雲が流れているようだ

春風は南から吹くのであって、北から吹くなどは許せないことだ

十年史書の恨みをすべて溶かし消したい気持ちになるだろう

陵墓にねむる後醍醐天皇の恨みは解けたのだろうか、長い時間立ち尽くしている

[注]

【芳山】
奈良市の東に「芳山(ほやま)」という低い山があるが、ここでは「吉野山」のこと。
【延元の陵】
後醍醐天皇の墓所(塔尾陵)。
【多時】
長い間。

[補説]

『山田顯義傳』、「空齋詩稿」(『日本大学精神文化研究所紀要』第25集)とも「芳野」の題が付けられている。「芳野」は「吉野」の雅称として使われた。『山田顯義傳』では、本詩は明治18年の作としている。山田はこの年の4月~6月にかけて南海・山陰両道及び山口・神戸・大阪・京都などの裁判所を巡回したとあるから、ついでに吉野にある後醍醐天皇の墓所に詣でたのかもしれない。