[大意]

人は一生のうちで多忙を嘆く時もあるが

日夜、心を「空」の状態にすれば、気概を保つことができる

月は白く風は清く、水の音が静かに聞こえてくる

深夜に独り静かに、書斎で香を焚く

[注]

【繁忙】
仕事に追われること。
【日夕】
日夜。
【意味長】
感慨深い。四字成語「意味深長」(人の言動の奥深い意味)の「意味」は中国古典では気概を表わす。
【幽斎】
閑静な書斎。「幽」は奥深くて静かなこと。「斎」は「斎戒沐浴」の斎で、中国古典では「もの忌をする部屋」の意。
【焚香】
「空齋詩稿」では「偶作」と題しており、結びは「聞香」になっている。「香を聞く」では聴覚的要素が強い。後に臭覚を刺激する「焚香(香を焚く)」に改めたのであろう。

[補説]

『學祖山田顯義漢詩百選』159頁・052詩を併読すると、「心を空(禅の境地)の状態にする書斎」で高雅な香木の薫りを楽しむ「空斎」居士の禅味をより深く理解することができる。武市兄が誰か詳細は不明である。