貴重書の調査と保存
当館は,「西洋法制史コレクション」,「グロティウス・コレクション」を中心に,1400年代から1700年代に刊行された西洋古刊本を多く所蔵しています。
これらは学術的のみならず,法学の枠を超えた文化財としても高い価値を有しております。これらの貴重な刊本を後世に残し,今後の閲覧・研究などへの利用に耐えるよう,調査と保存作業を実施しています。
貴重書の調査
当館では保存作業と併せ,2016年度から以下のような『調査』を行っています。
文化財としての本の形態と機能および劣化に関する情報を体系的に収集・分析して,モノとしての状態を具体的に把握する事を目的としています。
そのために専用の調査票とデータベースを設計して運用し,必要な修復・保存処置を施して長期に渡る閲覧・調査・研究などに資するよう活用しています。
調査・保存作業の流れ
本のクリーニング
クリーニングボックスで刷毛を使ってホコリを除去
本の外観の撮影・画像加工
専用の調査票への個別情報入力
OPACから引用した書誌情報と撮影した画像の取込み・寸法計測
計測器
専用調査票への記入
実物の本を見ながら調査を行う
専用調査票
調査結果の入力・データベース作成
専用データベースソフトを使用
専用データベース入力画面
修復・保存処置が必要な本の検索・抽出
学術的重要度別・損傷別・保存作業別にデータベースから抽出
保存作業不要の場合調査終了
保存カルテの作成
保存処置の記録
専用データベースソフトで作成
保存カルテ入力画面
保存作業の実施
- 修復・保存処置
- 記録撮影
- 保存カルテ記入
作業室での保存作業
保存処置内容の入力
本の構造と各部名称

西洋古典書籍の損傷・劣化事例
- 背が割れている
- 開きが悪くなった本を無理に開き,のど割れを起こした事により,背がブロック状に分割してしまう事がある。このように,開きの悪い本を無理に広げると破損する恐れがあるので,予防策として閲覧には書見台を使用する。
- インク焼け
- 文字が書かれていた部分に穴が開いてしまう損傷を「インク焼け」と言い,19 世紀頃まで頻繁に使用されていた没食子インクにより起こる損傷である。インクに含まれる酸性物質により,インクが紙を酸化させ,紙が焼けたような損傷を受ける現象である。
- 虫による被害
- 保管状態や環境などによって,虫による食害が起こる。この虫損によってとじ糸が喰われ,ページが外れてしまったり,紙がレース状になってしまい,情報を読み取れなくなってしまう。また,げっ歯類などによる獣害の場合は,本の一部が噛み千切られていることもある。
- カビ被害
- 災害や保管環境によるカビ被害。日本は高温多湿の環境のため,常にカビの脅威にさらされている。カビは紙や素材の表面の組織を侵食し,分解する事によって破壊する。また,胞子は人間の健康に害を与えるため燻蒸,クリーニングが必要である。
- ページの破れ
- 使用中に発生したページの破損箇所は,そのままにしておくと,引っかけるなどして更に破損を進行させてしまう事がある。そのため繕いなどにより補修する必要がある。
- ページ同士のくっつき
- 過去に何らかの物質が付着して,経年とともにページ同士をくっつけてしまう場合がある。このままにしておくとページを開いた時に破れてしまう可能性があるので,剥がす必要がある。
- 粘着テープが貼られている
- 過去に修理として粘着テープが貼られていた。テープは貼ったばかりの時は透明だが,粘着の化学成分が時間の経過とともに変質して色を変え,また,本紙に色を残してしまう。今後の保存のためにもテープ除去が必要である。
貴重書の保存
「調査」を経て,処置内容が決定された本の実際の修復作業風景や損傷の事例を動画にまとめました。
(2022年1月~3月開催「西洋法制史コレクションの調査と保存展」の際に上映したものです)
貴重書の保存修復は,取り扱い方や保存環境によって起こる将来的な損傷を防止し,またすでに破損した状態の物に対しては今後の安全な利用が出来るよう回復することを目的としています。
西洋貴重書籍の修復事例
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修復事例 - クータを貼る
製本構造:リンプ
装丁:総羊皮紙装 -
損傷事例 - とじの崩壊
製本構造:リンプ
装丁:総羊皮紙装 -
損傷事例 - 粘着テープによる過去修復
製本構造:とじつけ
装丁:総羊皮紙装 -
修復事例 - ジョイントタケティング(分離した表紙と本体の接続)
製本構造:リンプ
装丁:総羊皮紙装 -
修復事例 - 表紙と本体を構造的に接続する(上映時間15分 音あり)
製本構造:リンプ
装丁:総羊皮紙装 -
修復事例 - とじ補強修理
製本構造:くるみ製本
装丁:半角羊皮紙装 -
損傷事例 - 獣害によるページの損傷
製本構造:くるみ製本
装丁:総紙装 -
修復事例 - 背表紙修理
製本構造:とじつけ
装丁:半革装 -
修復事例 - 背ジョイント修理
製本構造:とじつけ
装丁:半革装