この資料について

司法省法律顧問ボアソナード(Gustave Émile Boissonade de Fontarabie 1825-1910)が、明治20(1887)年6月に制度取調局御用掛井上毅の求めに応じて山田顕義司法大臣以外に他見させないという約束で提出した意見書である。

これは、明治20年4月に採択された「裁判管轄条約案」のうち①外国人裁判官を多数とする混合裁判所の設置、②日本の法典草案の内容を外国政府に通知する点について強く反対するものである。ボアソナードは、①については、日本人にとって不公平な裁判が行われ、その不利を被る範囲は旧条約よりも広がってしまう、②については、日本の立法権に外国の干渉を許すことになり、主権の侵害になると主張している。

このボアソナード意見書は、政府の重要機密文書であったにもかかわらず、政府部外に漏洩し、秘密出版物として世上に流布することとなり、全国的に広まっていた条約改正反対論の火に油を注ぐことになった。

このボアソナードの意見書に対し井上馨外務大臣は、激怒し反論するとともに山田司法大臣に対し、ボアソナードを民法編纂事業から外すように申し入れた。しかし、山田は自らの職を賭してボアソナードを庇い、事なきを得た。

この条約改正交渉は、反対論が高まったため明治20年7月に無期延期となり頓挫し、井上外務大臣は9月に引責辞任した。

なお、本館は、『ボアソナード氏ノ意見ニ対スル駁正』(『ボアソナード氏の意見に対する覚書』井上外務大臣)という井上外務大臣の反論も所蔵している。