明治八年四月十四日校了 永峰秀樹訳 代議政体 一二  (マイクロフィルム)

解説

ミル著永峰秀樹訳『代議政体』和綴じ四巻本は、前半の2巻(巻之一、巻之二)が明治8(1875)年に、後半の2巻(巻之三、巻之四)が明治11(1878)年に山城屋政吉(稲田政吉)の奎章閣から発兌(公刊)されている。今回公開する資料は、前半の2巻(巻之一、巻之二)の「明治八年四月十四日校了 永峰秀樹訳 代議政体 一二」翻訳稿本画像である。本稿本に記された日付は、75年3月5日(5/Mar/75)に始まり、75年4月10日(10/4/75)で終わっている。稿本の第1丁は、「代議政体論巻之一 英国 弥尓氏著 日本 永峰秀樹訳 第一編 政体を撰フノ限界ヲ論ス」で始まっている。稿本の第20丁は、「第二篇 善政体ノ善悪を裁決スルノ標準」(「善悪を裁決スルノ」に訂正の棒線あり)で始まっている。

本稿本画像は、國學院大学の山下重一教授(1926-2016)が所有されていた永峰翻訳稿本3冊のうち第1冊を、昭和56(1981)年に撮影した白黒マイクロフィルム(寄贈)である。山下教授を通じて3冊のうち、なぜ第1冊だけ撮影・寄贈されたのかは不明である。本稿本に関して山下教授は、

「永峰は、海軍兵学校教員であって、自由民権運動とは全く関係がなかったし、彼の訳書には、自序も解説も付いていなかったから、彼がどのような意図で本書の翻訳に没頭したかは全く分からない。しかし、当時としては平明で原文を極めて巧みに消化した彼の語学力と、最初の三章の訳出と訂正を二箇月足らずで仕上げた抜群の語学力と集中力とは驚くべきものであり、明治初期における本書の訳出には大きな意味があった」と高く評価している(山下、2011年、119ページ)。

本図書館では、この寄贈マイクロフィルムおよび、この印刷製本(複写製本)したものを1981年以降閲覧用に公開してきた。しかしこの寄贈マイクロフィルムは、この間、劣化が進行しており、いずれ閲覧することが不可能になることが予想される。そこで今回、これをデジタル化し公開することとした。本翻訳稿本原物を見ることはできず確定的なことは記述できないが、本翻訳稿本はもともと、黒色と朱色の筆書きかペン書きによる文字で書かれている。白黒画像を見てのとおり、稿本は、鮮明な筆跡による黒色部分と、筆跡は鮮明でも色味がやや薄くなった灰色部分とに分けることができる。この色味がやや薄くなった薄墨色部分が、本翻訳校本では朱書きされた部分であったことが分かる。

参考文献
・『代議政体』の各版は次のものを見よ。
永峰秀樹訳『代議政体』山城屋政吉(稲田政吉)、奎章閣、1875年、1878年。
永峰秀樹訳『代議政体』明治文化研究会編『明治文化全集第三巻 政治篇』日本評論社、第三版第二刷、1969年。
『代議政体』4巻本は国立国会図書館で公開されている。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/783435
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/783436
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/783437
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/783438
・本翻訳稿本については、『明治文化全集第三巻 政治篇』改題他、次の山下を参照せよ(奇しくも『代議制統治論』公刊の120年、150年の論説となっている)。
山下重一「永峰秀樹訳『代議政体』の草稿(明治八年)について」『國學院法學』19(3)、1981年。
山下重一「永峰秀樹訳『代議政体』——ミル『代議政治論』の本邦初訳——」『國學院法學』49(2)、2011年。
・永峰については次の文献を参照せよ。
永峰秀樹[著]、永峰春樹編『思出のまゝ』1928年。
保坂忠信著『評伝永峯秀樹 明治初期翻訳・文化功労者』リーベル出版、1990年。
・稲田政吉については、まとまった研究書はないが、次の文献を参照せよ。
反町茂雄編『紙魚の昔がたり 明治大正篇』八木書店、1990年、139ページ、注86。
内田魯庵『魯庵随筆読書放浪』斎藤昌三、柳田泉編『東洋文庫603』平凡社、1996年、「銀座繁昌記」(十)銀座の本屋―稲田政吉と兎屋と鳳文館―、108ページ以下。