ヒューム / Hume 解説

1 はじめに

日本大学図書館法学部分館は、イギリスの哲学者、歴史家、政治・経済思想家として知られる18世紀の巨人デイヴィッド・ヒューム(David Hume. 1711-1776)が、エリバンク卿(Patrick Murray, fifth Lord Elibank. 1703-1778)に宛てた自筆書簡を11通、また、ヒューム自筆の「領収書」1葉を所蔵している。

本館が所蔵しているヒューム自筆書簡11通は、すでに1963年、アーネスト・キャンベル・モスナーが、当時の書簡所有者(匿名)の許可を受けて、「エリバンク卿に宛てたヒューム新書簡、1748-1776」の中で、全17通を公開した1。本館は、そのうちの11通を1979年2月に購入している。

ヒュームからエリバンク卿に宛てた書簡は、グレイグ『デイヴィッド・ヒューム書簡集』The Letters of David Hume の第1巻2では、次の3通が紹介されている。

  • Letter 46. To Lord Elibank. Weldehall March. 29. 1746. pp.84-85.
  • Letter 172. To [Lord Elibank ?]. [Late 1759 or early 1760]. pp.318-321.
  • Letter 259. To Lord Elibank. Fontainebleau 3d of Nov 1764. pp.477-479.
そのうちの最後の書簡Letter 259. To Lord Elibankは、モスナー「エリバンク卿に宛てたヒューム新書簡、1748-1776」の中の、14. [Fontainebleau, 3 November 1764]と同じものである3

2 ヒュームとエリバンク卿

パトリック・マレー、エリバンク卿第5世は、父エリバンク卿第4世アレキサンダー、母エリザベスの間に誕生した。パトリックは、1723年に陸軍に入隊、1736年に男爵位を継承する。1735年に、マリア・マーガレッタ(Maria Margaretta)と結婚する。その後1739年には陸軍中佐に昇進した。1740年カルタヘナ討伐隊に参加するものの、自分の昇進が進まないことに嫌気がさして、任務を辞してしまう。パトリックはその後、エディンバラやロンドンにおいて、上流人、文学後援者、批評家、田舎に住む資産家、ボン・ヴィヴール(bon viveur、よろしくやっているひと)として暮らす。18世紀半ば、エリバンク、ケイムズ卿(Lord Kames)、そしてヒュームは、エディンバラにおける趣味人3人組(triumvirate of taste)を作っていた4

グレイグ『ヒューム書簡集』第1巻に収録されているヒュームからエリバンクに宛てられたLetter 46.の日付が1746年3月29日であるので、両者の文通は、ヒューム35歳にさかのぼることが可能である。

ヒュームは1745年、アナンデイル侯爵(Marquess of Annandale)の家庭教師を務めて、ロンドンに1年間暮らした。この時期にヒュームとエリバンク卿が出会っていたらしい。「エリバンク卿、ジェームズ・ファーガソン(後のピットフォア卿(James Ferguson, later Lord Pitfour)、ヘンリー・ヒューム(Henry Home)、アーチバルド・ステュアート(Archibald Stewart)――全員ヒュームの親友――は、あれやこれやとジョンストンズ(Johnstones of Annandale)と関係があった」。従って、ヒュームとエリバンク卿との交流は、1746年をさらにさかのぼって、この1745年に開始されたと思われる5

3 凡例

【書誌情報】(Bibliographic information)

(1) David Hume collection 1
(2) 資料名[Letter] 1748 January 8 Ninewells near Berwick, [to] Lord Elibank / David Hume
(3) 形 態[4] p. ; 23 × 19 cm.
(4) 刻 印なし
(5) 封 蝋なし
(6) ウォーターマークIV(あるいは、VI)
(7) MossnerI. pp.437-438.

(1) コレクション番号
Collection name and number
(2) 資料名、(3) 形態は、図書館法学部分館の書誌に従っている。
Material's name. Form.
(4) 刻印、(5) 封蝋、(6) ウォーターマーク
便箋に刻印、封蝋、ウォーターマーク(透かし模様)がある場合、それを記述してある。
Engraved mark. Sealing wax. Watermark.
(7) その他
その他の欄には、宛先や、書簡について特記すべき事項が示されている。
Special note.
(8) Mossner
モスナーの「エリバンク卿に宛てたヒューム新書簡、1748-1776」で紹介されている書簡は、その番号、掲載頁を記した。
Reference cited.

【書簡本文(翻刻)、注記、解説】(Transcription. Note. Comment.)

表に続けて、書簡本文(翻刻)、注記、解説の順で記述している。本文(翻刻)中、下線がついている部分には、そのまま下線をつけている。本文(翻刻)における改頁は、1行空けることで示している(キャッチワードがある場合は、右下に示したうえで、改頁している)。本文(翻刻)の注記は、モスナーによるものである。


1 Mossner, Ernst Campbell. "New Hume Letters of Lord Elibank, 1748-1776." in: Texas Studies in Literature and Language. Vol. 4. No.3. Autumn 1962. pp.431-460. Cf., p.431. note*.
2 Greig, J. Y. T. 1932. The Letters of David Hume. 2 vols. The Philosophy of David Hume. Eighteen of the Most Important Books on Hume's Philosophy Reprented in Twenty Volums. ed., by Lewis White Beck. New York : Garland Publishing, Inc. 1983. vol. 1, pp.84-85, 318-321, 477-479.(本書は『ヒューム書簡集』と表記する。)
3 モスナーが紹介した14番の書簡の下書き(rough draft)は、エディンバラ王立協会(Royal Society of Edinburgh)に所蔵されている。Cf., Burton, John Hill, 1846. Life and Correspondence of David Hume. Burt Franklin Research Source Works Series 186. Philosophy Monographs 13. New York: Burt Franklin. [1967.] 2 vols. Vol.2, pp. 257-260.
4 Greig, Vol. 1. p.84. note 2.
5 Mossner, Ernst Campbell. The Life of David Hume. London : Nelson. 1954. p.163.(本書は『生涯』と表記する。)